東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)191号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告ら主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決の認定判断は正当であつて、原告らの主張は、以下に説示するとおり理由がないものというべきである。
前示本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証(昭五六―一二二四〇四号公開特許公報)並びに第六号証の一(昭和五七年一二月二七日付手続補正書)及び二(昭和五八年四月七日付手続補正書)を総合すると、本願発明は、トラクターを利用して田の整地と除雪とができる除雪兼用整地装置に関する発明であつて、本願発明の要旨(特許請求の範囲の記載と同じ。)のとおりの構成、特に、「f……………すき(10)を昇降枠(3)の下部に斜設する。」及び「h 不使用時にすき(10)を回動させてすき先を上方に引上げる引上げハンドルと引上げロツドを有する引上げ装置(13)を昇降枠(3)に設ける」という構成を採用したことにより、除雪装置として利用するに際しては、昇降枠(3)の下部に傾設したすき(10)が邪魔にならないように、引上げハンドルを操作してすき先を引き上げた状態にして除雪作業を行い、整地装置として利用するに際しては、すき(10)を傾設状態に降ろして整地作業を行うことができるという実用性を発揮するものであることが認められる。他方、引用例(引用例が本願発明の特許出願前国内において頒布された刊行物であることは、原告らの明らかに争わないところである。)に本件審決認定のとおりの事項が記載されていること、本願発明と引用例記載のものとの間に本件審決認定のとおりの一致点及び相違点(イ)ないし(ハ)が存すること、並びに右相違点(イ)及び(ロ)についての本件審決の認定判断は原告らの認めて争わないところである。
ところで、原告らは、本件審決の右相違点(ハ)についての認定判断を争うので、この点について検討するに、成立の争いのない甲第七号証(本件審決において本願発明の特許出願前の慣用技術を示すものとして例示された特開昭五一―一一六〇五号公開特許公報。同公報が本願発明の特許出願前国内において頒布された刊行物であることは、原告らの明らかに争わないところである。)によれば、同号証には、回動操作用のハンドルによる角ネジ軸の回動で、刃先板をその至端に固定した食込板を回動させて食込板を引き上げ又は引き下げ、食込板の上下揺動を行う溝掘兼用アンカー装置が記載され、また、成立に争いのない乙第一号証の一によれば、同号証は本願発明の特許出願前国内において頒布された公開実用新案公報であるが、それには、均平板を回動させて均平板の先を上下させ、均平作業を行う自由位置と土寄せ作業を行う固定位置とに選択できるハンドルとアームを有する操作機構を具備したロータリ代掻装置が記載され、更に、成立に争いのない乙第二号証によれば、同号証は本願発明の特許出願前国内において頒布された実用新案公報であるところ、それには、補助整地板を回動させて補助整地板を上下させ、固定したり、遊動状態にして整地作業を行うための操作杆と連動杆及び連杆とを有する整地装置が記載されていることが認められ、右の溝掘兼用アンカー装置、ロータリ代掻装置、整地装置は、いずれも本願発明に係る除雪兼用整地装置と同様に農業用等の作業機に属するものであり、また、右各装置における食込板、均平板及び補助整地板は、いずれも本願発明のすきに相当するものであるから、右事実によれば、すき等を回動自在とすることにより、作業機の不使用時等にその目的に沿つてすき先等を上方に引き上げる引上げハンドルと引上げロツドを有する引上げ装置を作業機に取り付けることは本願発明の特許出願前において慣用技術であつたものと認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そして、引用例に示されたL型バケツト支持体に数段に設けられた複数の透孔にすきの枢軸を調節自在に支承した構成と右慣用技術とは、すきの不使用時にすきが邪魔にならないようにそのすき先を上方に移動させることのできる装置という点では共通しており、引用例記載のもののL型バケツト支持体(昇降枠)に右慣用技術を設けて本願発明のようにすることによりもたらされる効果も、右慣用技術そのものの効果であつて、予測し得るものということができるから、不使用時にすき先等を上方に引き上げるための手段として、引用例記載のものに代えて、前記慣用手段である引上げハンドルと引上げロツドを有する引上げ装置を採用することは、単なる設計変更にすぎないものと認めるのが相当である。原告らは、上下多段に設けた透孔の一つを選んですきを上方に取り付けたりすることと定位置で軸着されているすきを引上げハンドルを回して引上げロツドによりすき先を引き上げることとは、目的も、作用効果も異なる全く別異な発想に基づく別異な構造である旨主張するが、前認定説示のとおり、すきを回動自在として、不使用時等にすき先を上方に引き上げる引上げハンドルと引上げロツドを有する引上げ装置を作業機に取り付けることは周知慣用の技術であつて、しかも、引用例記載のすきの支承手段と右慣用技術とは、その目的も共通し、その奏する効果も予測し得るものにすぎないから、たとい、引用例記載のすきの支承手段と本願発明のすき先の引上げ装置とが別異の発想に基づく別異な構造であるとしても、引用例記載のすきの支承手段に代えて右慣用技術を採用することは単なる設計変更にすぎず、したがつて、原告らの右主張は採用することはできない。また、原告らは、本願発明は、すき先を回動させるすき引上げ装置を他の構成要件(構成要件a、b、c、d、f)でその構造が特定されている昇降枠(3)に設けると規定しており、少なくとも、本件審決が慣用技術を示すものとして引用した特開昭五一―一一六〇五号公開特許公報にはこの昇降枠は何も開示されていない旨主張するが、前示のとおり、引用例記載のトラクターの三点リンク機構により昇降する「L型バケツト支持体」が本願発明のリフトアームにより上下動する取付アームとアツパリンクにより昇降する「昇降枠」に相当することは原告らの認めて争わないところであり、本件審決は、すきを昇降枠に取り付けることは本願発明と引用例記載の発明とに共通する事項であると認定したうえで、すきの昇降枠への取付けの構造だけが相違するものとし、その取付けの構造の違いを相違点(ハ)として認定したものであり、また、本件審決は、慣用技術を示すものである特開昭五一―一一六〇五号公開特許公報に昇降枠にすきの引上げ装置を設ける点が開示されていると認定したものではないから、原告らの右主張は、本件審決の説示していない事項について論及するものであつて、これを採用することはできない。
叙上の事実によれば、本願発明は引用例記載の発明と同一のものとみるのを相当とし、したがつて、本件審決の認定判断はその結論において正当というべきである。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告らの本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
以下のa~hの要件の結合からなる除雪兼用整地装置。
a トラクター(1)の後部に設けたリフトアーム(2)により上下動する取付アーム(14)と、取付アーム(14)の上部位置に設けたアツパリンク(12)とにより、垂直部(3)´´と水平部(3)´とを有する昇降枠(3)を支持する。
b 前記昇降枠(3)の水平部(3)´にキヤリアバケツト(7)の前側が載置された状態に設け、且水平部(3)´の先端部をキヤリアバケツト(7)の底部の前後方向中間部の前寄りに軸着してキヤリアバケツト(7)を昇降枠(3)に対して後方にダンプするように廻動可能に設ける。
c 昇降枠(3)とキヤリアバケツト(7)の前側とに、昇降枠(3)の上部に解除操作部を設けた解除可能なバケツト保持装置(11)を設ける。
d 前記アツパリンク(12)及び取付アーム(14)は、昇降枠(3)を上動させると昇降枠(3)が上動するに従い前傾姿勢となるように構成する。
e キヤリアバケツト(7)には前壁・左右側壁・底壁を設け、すき(10)に近接するキヤリアバケツト(7)の前部に土導入窓部(9)を設ける。
f この土導入窓部(9)よりキヤリアバケツト(7)内に削り取つた土を導入するすき(10)を昇降枠(3)の下部に斜設する。
g キヤリアバケツト(7)の底壁の後端縁には後進時作用する除雪用刃部(8)を形成する。
h 不使用時にすき(10)を回動させてすき先を上方に引上げる引上げハンドルと引上げロツドを有する引上げ装置(13)を昇降枠(3)に設ける。